茅の循環による暮らしと地域コミュニティの可能性

近年、持続可能性や循環型社会の実現といった現代社会の抱える課題について、建築の分野では、設計段階、材料の選定、施工方法、工事による発生材の処理等、全体を通じて取り組む動きが見られている。

そのひとつの事例として、長野県長野市戸隠にある宿坊の茅葺き屋根の葺替え工事の際に、排出される茅材(以下、古茅と称する。)の処理について、地域循環とコミュニティの再生という視点から取り組んでいった。

茅葺き民家とその葺き替え工事の現状

かつて、茅葺き民家は、里山の環境に適応し、茅は茅刈りから始まり、屋根葺き、農地の堆肥利用など、生活の一部として存在し、循環型の暮らしは自然と成り立っていた。その根底には、集落(地域)単位のコミュニティである「結」(ゆい)とよばれる互助組織があり、住民の労働力や資材の貸し借りを行うことで地域の生活を維持してきた。ひとつの共同体としての意識がかつての茅葺き民家の風景をかたちづくっていたのである。

やがて、高度成長期に入り、茅葺き民家にはトタンがかぶり、その風景も数を減らす一方となり、また、屋根の耐火性の観点から、建築基準法では、特定の地域以外での新築は不可能となり、その減少に拍車を掛けた。このような時代の変遷の中で、農村部においても、農業主体の生活から、多種多様な選択肢のある生活を享受するようになり、その結果として、かつての地域コミュニティは希薄となり、茅による循環の文化も自然と廃れていった。

こうして、現代において建設会社や工務店が請負う茅葺きの葺き替え工事は、古茅を廃棄物として処理することが半ば一般化したのである。

古茅の再資源化に向けた取り組み

では、古茅を廃棄物処理場で処理してもらうとどのくらいの費用がかかるのかというと、今回の工事を例として、葺き替え面積100㎡程度で排出される古茅の総量(屋根材に再利用される分を含ない)は4トン車に約7台分となり、処理費として約10万円(4トン車1台あたり約15,000円)がかかるわけだが、これだけの量の茅をただ廃棄するのではなく、資源として再び価値を取り戻し、活用することで、地域のまちづくりにおける魅力のひとつに成り得るのではないかと考えた。

先に挙げた戸隠の地域性により実現の可能性は十分にあったため、地産地消(その地域で産出されたものは、その地域で消費すること)に基づき、資源循環による環境負荷の低減と、活動による新たなコミュニティの形成と地域の活性化を目的として、古茅を廃棄物としてではなく有価物として取り扱い、その価値を理解してくれる方と売買契約を結び、買い取ってもらう試みを始めた。

有価物とは、「廃棄物ではなく、他人に有償で売却できるもの」のことであり、それと判断された時点で、原則としては廃棄物処理法の適用外となり、処理業(収集運搬業と処分業)の許可や委託契約書、マニフェストの運用も不要となる。

廃棄物と有価物の区分の判断基準は、原則として、環境省が示す5つの条件による。

環境省 環循規発第18033028号「行政指導の指針について(通知)」4-(2) 廃棄物該当性の判断について(URL ; https://www.env.go.jp/hourei/add/k068.pdf)参照

所謂「総合判断説」と呼ばれるものは、所有者(排出事業者)の判断に客観性が乏しいため、有価物と判断した理由を明確にするためのエビデンス、つまり、対外にそれらを証明する「売買契約書」と「品質管理基準」などを作成し、継続的な売買取引をしている証拠を残すことが必要となる。

重伝建地区での工事は、民間工事とはいえ国からの補助金により成り立っており、市町村の教育委員会文化財課や都市整備課、また文化庁など行政も関わる、いわば半行政の工事といえるものとなっている。そのため、記録や用途、品質、価格決定については、茅葺職人などの工事関係者も含めた協議により決定した。

今回の条件としては、排出時の写真(運搬車のナンバープレート、運搬状況、運搬先等)は必ず記録すること、戸隠地域内で農業をしていること、運搬は排出事業者(施工会社)が行うこと、有償譲渡先には前もって茅の状態を確認してもらい用途に適した品質・形状のものを選択してもらうこと、4トン車1台あたり1,000円とすること、となった。

このように、茅の循環の実現に向けて動き出したのだが、この文化は、茅葺民家の絶対数の減少による古茅の排出量が減少や、農業の近代化による形態の変化等の要因で、農家の受入れ先がなくなり、途絶えてしまったのだと推察され、当初は受入れ交渉が難航すると予想していた。しかし、有機農法を営む情報感度の高い方や古くから戸隠で農家を営む方は、古茅の有用性や地産地消の考えに理解があり、積極的に取り入れようとしてくれたことにより、こちらの想定よりもはるかに早く実行に移せた。地域の農家のネットワークにより情報が広まり、最終的にはほぼ全ての古茅を再利用してもらうこととなった。

今回の試みで茅葺民家とは、この循環の文化があってこそのものなのだと実感した。建物だけには留まらないポテンシャルの高さを改めて認識し、地域内の暮らしの資源の活用方法のひとつとして継続していければ良いと考えている。伝統的な建物を守り次世代に繋げるということは、単に外側だけを守るのではなく、そこで営まれる暮らしそのものを見ていかなければならない。これからも地域に住む人々と多様な繋がりをもてるコミュニティの創出に尽力していきたい。